2009.05.11

テクニカルニュース

省エネ

次世代エネルギーの確保に向けて大きく前進!

当社は、ロシア科学アカデミー陸水学研究所、北見工業大学及び北海道大学と共同で、バイカル湖の湖底表層に存在するメタンハイドレートからガスを分離・回収する実験※1に世界で初めて成功しました。

メタンハイドレートは、氷のように冷たい物質でありながら燃えるため、「燃える氷」とも呼ばれています※2。天然ガス成分であるメタンが海底・湖底などの深層に低温・高圧の状態で閉じ込められた物質で、石油などに変わる次世代エネルギーとして注目されています※3。近年の調査研究では、深層だけではなく表層にも存在することが明らかとなっており、日本近海でもオホーツク海や日本海の表層で確認されています。

今回の実験では、湖底表層のメタンハイドレートを水と撹拌して揚水するという極めてシンプルな方法を用いて、安全にガスを分離・回収することに成功しました。今後は、表層資源に関する埋蔵調査やプラント機器の改良などを行い、回収効率や経済性の向上を図り、4年以内の技術確立を目指します。


燃えるメタンハイドレート

本回収実験は、独立行政法人科学技術振興機構の平成18年度革新技術開発研究事業による委託を受けて実施されました。

低温・高圧の条件の下で水分子が作る「かご構造」の中にメタン分子が閉じ込められた結晶構造です。

日本のメタンハイドレートの資源量は、天然ガス消費量の約100年分に相当する量があると推定されています。


実験の概要図

●本実験の特長

  • メタンハイドレートと水を撹拌して揚水するという単純な方法により、安全にガスを分離・回収することに成功。

シンプルな技術で安全にガスを分離・回収

海底や湖底の深層メタンハイドレートの場合は、加熱や減圧により温度・圧力条件をわずかに変化させることによりガスを分離・回収できます。一方、表層の場合は深層よりも低温で安定しているため、効率的にガスを回収するには工夫が必要であり、技術は確立されていません。

実験では、内部にウォータージェットノズルを装着したチャンバー(反応容器)を用いて湖底表層のメタンハイドレート層を掘削・撹拌し、メタンハイドレートを水に溶かして湖上へ揚水することでガスを分離・回収しました。メタンハイドレートの分離はチャンバー内のみで発生するため、メタンが外部に漏れることはありません。

約100分間撹拌した結果、回収できたガスの90%は、メタンやエタンなどの炭化水素ガスで、ガスの組成・性質はメタンハイドレート分離ガスとほぼ同一でした。


茶筒状の鋼鉄製チャンバー:直径1.2m、高さ2m、重量約840Kg(写真提供:北見工業大学)


チャンバー内部には、掘削・攪拌用の垂直ウォータージェットおよび水平ウォータージェットがそれぞれ16本ずつ装着されている


バイカル湖で採取した表層コアに含まれるメタンハイドレート(写真提供:北見工業大学)


入念な事前調査により湖底の状況を確認

回収に先立ち事前調査では、物理探査やコアサンプリング、当社が開発した大水深用コーン貫入試験(CPT)などにより湖底堆積土やメタンハイドレートの物性を調べると同時に、有人潜水艇を用いた潜水調査を行いました。

潜水調査にはロシア科学アカデミー所有の有人潜水艇MIR(ミール)2号を使用し、約8時間潜航して実験サイト周辺の地形や地盤状況を確認しました。さらに、大水深用CPTプローブをMIRのマニピュレータ※4にも装着し、湖底地盤表層の硬さを確認しています。

人間の手と同等の機能を持たせた機械で、深海での研究作業などに用いられます


有人潜水艇MIR:最大潜航深度6,000m。オペレータ1名のほか、2名を乗せて潜航可能


大水深用CPTプローブ:湖底地盤表層の硬さを確認