2007.10.30

テクニカルニュース

維持・保全

現代に甦る江戸城石垣

当社は、文化財である城郭石垣の修復を支援する「石垣修復支援システム」を開発し、皇居東御苑内本丸中之門石垣修復工事に適用しました。

江戸時代には、大手門から本丸に至る重要な門の一つであった中之門の石垣は、特別史跡として一般公開されています。1704年に一度修復された後、長い年月の間に地震等の影響で変形し崩壊の危険性が生じたため、安全性確保を目的に修復工事が行われました。史跡である石垣の修復は、建設当時の形状・構造を推定し、踏襲したうえで、安定した構造に復元することが文化財の修復設計上重要な課題となります。また、中之門石垣の石の形状は直方体に近く、江戸城の中でも最大級の36トンの巨石に加え、築石間の隙間が小さく、修復には高い技術と精度が求められる特殊な石垣です。

こうした課題を達成するために開発された本システムは、高精度の3次元シミュレーション技術や石垣安定解析技術を軸とする最先端技術と、古くから伝わる匠の技との融合を実現し、高精度で効率的な石垣修復設計が可能となります。また、石垣に限らず、石橋などの歴史的石材構造物の修復にも役立ちます。

なお、この石垣修復支援システムは第9回国土技術開発賞で最優秀賞(国土交通大臣表彰)を共同開発者の宮内庁管理部、計測リサーチコンサルタント、日日石材と共に受賞しました。


修復工事が完了した石垣


修復前の石垣


石垣の断面図

●システムの特長

  • 石垣の「積み直し」による工費・工期の増加リスクを大幅に低減できます。
  • 経験豊富な石工の意見をリアルタイムで設計に反映できるため、高品質の修復工事が可能です。
  • 城郭の石垣修復に限らず、石橋などの歴史的石材構造物の修復事業にも利用可能で、国内の文化遺産の保全と、伝統技法の継承に貢献します。

高精度かつ効率的に、石垣を修復

石垣修復支援システムは、「調査・記録システム」「対話型シミュレーションシステム」「石垣安定検討システム」の3つにより構成されています。

■調査・記録システム

修復に際しては、石垣そのものを調査・記録し、その結果に基づき、建設当時の形状・構造を推定し踏襲する必要があります。調査・記録システムは、3次元レーザー計測やデジタル写真測量等により、石垣全体及び各石材の3次元形状を調査・記録し、3次元CAD等のコンピュータシステムで再現します。また、測量成果は文化財調査成果として使用します。


3次元レーザーによる計測風景


石材の3次元データ(例)

■対話型設計シミュレーションシステム

リアルタイム干渉計算システムにより、石相互の干渉(競り合い)を高速で判定し、コンピュータ・グラフィックス上に立体表示することができます。これにより設計者は、コンピュータ画面を見ながら、経験豊富な石工の意見をその場で設計に反映させ、シミュレーションを繰り返すことで、最適な石垣の組み立て形状を設定することができます。


築石間の干渉状態をリアルタイムで表示


石工の意見を、その場で設計に反映

■石垣安定検討システム

石垣の安定解析を行い、地震時の安定性を検討します。当社技術研究所で遠心模型実験を行い、その実証を行いました。


動的FEMによる石垣基礎地盤の地震時安定性解析


2次元個別要素法による石垣の地震時安定性解析(倒壊した石垣)


遠心模型実験による実証実験:石垣の模型に30G強の遠心加速度をかけ、模型が倒壊する地震加速度を求めた


石垣の実験模型(倒壊前)

実験倒壊後


最先端技術で伝統的技法を強力にサポート

中之門石垣は、特別史跡江戸城跡に指定されています。修復工事に際しては、現代工法を使うことはできず、セメント・モルタルも使用できません。

施工時には、石工の持つ伝統的技法を、本システムの最先端技術がサポートすることにより、経験豊富な職人でも避けることのできない石垣の「積み直し」リスクを大幅に低減することができました。


解体


築石撤去


文化財調査


裏込材撤去


築石据付


石材加工


文化財調査業務との連携と情報の共有

中之門石垣の解体では、多くの貴重な遺構や遺物が出土しました。その一部について、簡単にご紹介します。


現在の中之門石垣の中に、江戸城創建時の中之門の遺構が出土


築石の背面より、1704年に石垣を修復した大名の刻銘が出土
(内容:「ほうえいがんねん きのえのさるしがつにち いなば ほうき りょうこくしゅ まつだいら うえもんのかみ よしあき これをきずく」)

築石背面より、角度調整部材としては、大変珍しい銅製敷金(しきがね)が出土

築石間を連結し、石の転倒防止を目的として設置された銅製のカスガイ(左)やチキリ(右)が出土