2005.10.06

テクニカルニュース

防災・減災

水の浮力を利用した免震システム。世界初の実用化!

当社が開発した「パーシャルフロート」は、水の浮力を利用して、地震による建物の揺れを低減する世界初の浮体式免震システムです。この新しい免震システムを採用した当社技術研究所の新風洞実験棟がこのたび完成しました。

「パーシャルフロート」は、建物の重さの半分を水の浮力で支えるため、免震装置を小型化できます。その結果、建物と地盤の絶縁性が高まり、通常の免震装置よりも高い免震性能を得ることができます。また、免震効果を高めることが難しい軟弱地盤でも、高い免震効果を発揮します。

大地震時に施設機能を維持する必要がある医療施設・通信施設・データセンター、美術館・博物館、軟弱地盤の多い都市湾岸部の施設など、より高い免震効果を必要とする建物の地震防災対策にお役立てください。

●特長とメリット

  • 建物の重さの半分を水の浮力で支えるため、免震装置を小型化できます。その結果、建物と地盤の絶縁性が高まり、通常の免震構造よりも高い免震効果を得ることができます。
  • 都市湾岸部などの軟弱地盤層でも、高い免震効果を得ることができます。
  • 建物を浮かべる貯留槽内の水を災害時の初期消火用水に利用するなど、有効に活用できます。

水の浮力を利用して、地震の揺れを低減する免震構造

「パーシャルフロート」は、 建物が巨大な貯水槽の中で水に浮ぶように、水の浮力と建物下に設置した積層ゴムの免震装置とで建物を支える新しい免震システムです。

建物重量の半分が浮力により支えられるので、免震装置で支える重量が減り、免震装置を小型化できます。これにより、地盤から伝わる地震の力が弱まり、通常の免震構造より高い免震効果を得ることができます。1秒間に数回の短く激しい建物の揺れ(周期)を数秒間のゆっくりとした揺れに変えて、地震時の被害を防ぎます。


通常免震との比較:軟弱地盤における大地震時の揺れを解析。通常の免震構造に比較して高い免震効果を発揮します。


免震装置:積層ゴムの直径を通常よりも15cm小型化(直径65cm・70cmの2種類)。水中用に免震装置全体がゴムで被覆されています。


減衰装置で揺れを軽減。居住性も向上

「パーシャルフロート」では、水の運動を利用した新しい減衰装置を貯水槽の内側に設置し、さらに安全性を高めています。減衰装置には、糸状のポリプロピレン材を立体網目状に織り込んだ透水体を利用し、地震時に発生した波を吸収、消波することで、建物の揺れを抑えています。また、強風時の揺れを抑える効果もあり、居住性も高めています。


画像にマウスカーソルを重ねると
減衰装置の拡大表示します。


貯留水の有効利用が可能

貯水槽内の水は、災害時の消防用水や生活用水、設備冷却水など、多目的に利用して、総合的な防災機能を発揮することもできます。また、通常は蓄熱槽としての利用や水に囲まれた地下の冷却効果で機器類の発熱を抑え、省エネ効果を得るなど様々な有効利用が可能です。

なお、ある程度の貯留水を一時的に抜いても、余震時の構造安全性を確保するように設計します。

災 害 時


初期消火のための消防用水


トイレやシャワーなどの中水利用

平 常 時


データセンターなど、機器類の発熱に冷却効果


水を取り入れた景観デザインが可能


風洞実験施設の概要

風洞実験棟では、構造物の安全性と快適な居住環境の創出のための各種実験を実施しています。建物の周辺状況を模型により再現し、高精度な風環境の予測を行うことが可能です。


画像にマウスカーソルを重ねると施設平面図を表示します。


画像にマウスカーソルを重ねると解析結果例を表示します。

■施設の概要

●建築概要

建築面積 952m2
延床面積 1253m2
建物高さ 17.2 m(地下3.3m、地上13.9 m)
階  数 地上2階・地下1階
構  造 RC造、一部S造
建物重さ 2900 t
喫  水 2.3m
貯水槽 平面積 830m2
    深さ4.5m、貯水量1540 t

●風洞仕様

型  式 回流方密閉式
測定胴寸法 幅3.5m×高さ2.5m×長さ20m
風速範囲 0~35m/s

●計測器仕様

多点圧力計測システム、PIV計測システム、流速計測器、荷重計

■開発者からの一言


技術研究所
大山グループ長

パーシャルフロートは、陸上の建築物を水の浮力で支える構造として、世界で初めて実現化された構造です。この構造には、通常の建築物に必要な技術以外にも様々な分野の技術力が集約されています。

今後は、貯留水の複合利用によって、総合防災上のメリットを活かした施設提案を目指していきたいと考えています。