2004.07.20

テクニカルニュース

環境

蝶や野鳥が飛びかう都会のオアシス

当社技術研究所では、屋上にビオトープをつくり、実証実験をつづけています。「ユニット型ビオトープ」では47種類もの昆虫が確認され、美観を重視した「万葉の里」屋上ビオトープでは、すでに10種類以上の野鳥と20種類以上の昆虫が確認されています。

さて、今年に入り、大規模ビル開発の際に敷地の一定割合の緑化を義務づける「緑化地域」制度が国土交通省により公布されるなど、緑化に対する社会的な取り組みは着実に進められ、緑化面積の確保といった法令遵守の点からも屋上緑化が緑化計画の重要な要素となっています。

今回は、緑化を進める3つの取組みについて、それぞれの技術をご紹介します。

1.美観にも配慮した屋上ビオトープ「万葉の里」
ヒートアイランド現象の緩和効果が非常に高い屋上ビオトープを、生態系保全と美観の両面で実現しました。

2.小スペースに適した緑化システム
限られたスペースの屋上ビオトープ導入と緑化のためのシステムです。

3.機能性緑化サポートシステム
700種以上の樹木、草花をデータベース化。単なる緑化にとどまらず、植物が持つ特性を活かした「機能性」を重視した緑化をサポートするシステムです。


1.美観にも配慮した屋上ビオトープ

■四季折々の花や果実を楽しめる「万葉の里」

当社技術研究所(東京・江東区)の屋上には、年間を通して緑豊かで四季折々の花や果実を楽しめるビオトープ「万葉の里」があり、研究所を訪れる人々に好評です。

日本庭園のような趣の美しい景観を持ちながら、鳥や昆虫にとって居心地のよい庭をつくり、現在、約10種類の野鳥、約20種類の昆虫などの飛来が確認されています。

右にある8つの小さな画像にマウスのカーソルを重ねると、「万葉の里」のさまざまな場所をご覧いただくことができます


<概要>

  • ビオトープ面積:約175m2(うち水辺は約22m2
  • 上載荷重:約300kg/m2(従来の約半分)
  • 万葉集由来の植物から約150種を選定(樹木の約70%、草本の約50%)

2.小スペースに適した緑化システム

■小型でも蝶やバッタが住みつづける「屋上用ユニット型ビオトープ」

「屋上用ユニット型ビオトープ」は、約10m2あれば、昆虫類が生息するために十分な屋上ビオトープをつくることができます。

「屋上ビオトープを造りたいがちょっと面積が足りないのでは?」「学校の屋上にビオトープを造って環境教育に利用したい」といったご要望にお応えします。


屋上用ユニット型ビオトープ

●ユニット化により半日程度で「軽量なミニビオトープ」が実現
屋上用ミニビオトープは、縦90cm×横150cm、深さ20cmのプラスチック製容器を1ユニットとし、これを8つ組み合わせて約10m2のビオトープを作ることができます。

  • 積載荷重は130~150kg/m2と通常の屋上ビオトープと比べ、非常に軽量です。
  • 各ユニットは、持ち運びが容易なうえ、設置場所で組み立てる構造のため、半日程度でつくることができます。
  • 屋上に通常の水道・排水設備があれば新たな設備工事は不要で、設置後の維持管理についてはタイマーを用いて水やりを自動化しています。

ビオトープに集まった生物・世代交代を行った生物
当初、敷地内の昆虫は29種でしたが、屋上用ユニット型ビオトープでは47種の生息を確認しました。チョウやバッタ、コオロギの産卵や世代交代も確認しています。


羽化したアゲハチョウ


羽化したトンボ


羽化したモンキチョウ


池に来たカルガモ


ツユムシの幼生


アオスジアゲハの幼虫

●ニーズに合わせた植栽レイアウトの例
植栽植物は「どのような生物を呼び込みたいか」といったお客様のニーズと周辺の生態系に合わせて選択します。高さの異なる木や池を組み合わせたり、幼虫の餌となる植物を選ぶなどの工夫をすることで、チョウやバッタが定着しやすい環境をつくることができます。

チョウが暮らす「飛来誘致型」

蝶が卵を産む植物を中心に選んだレイアウト。自然に飛んで来る蝶を誘うようにしたものです。

バッタが暮らす「導入定着型」

草や潅木を中心に選んだレイアウト。もともとその地域に生息するバッタやコオロギなどをビオトープに放し(導入)、定着させます。


「地上と屋上」で「同型・同時」の調査で機能を実証 当社の技術研究所(東京・江東区)における実験では、形状が全く同じユニット型ビオトープを同じ方位で地上と屋上に設置して、約2年半にわたりその効果を比較・検証しました。これにより小規模の屋上ビオトープでも、地上と同等の機能を持つことが実証されています。

■水やりの手間が省けるベランダ緑化システム「年中花見月」

植物への水やり機能を備えた特殊成形パネル(長さ40cm×幅40cm×高さ15cm)を使う緑化システムです。

企業・法人、学校、病院などのお客様を対象に、ベランダやバルコニーをはじめ、エントランス部分、屋上など、設置場所の面積や形状に合わせて自由に緑化することができます。

パネル下部に備えた貯水タンクから水を吸い上げることで、2週間程度水やりをしなくても植物が枯れることはありません。

マンションのバルコニーを緑化される個人のお客様への対応も今後進めていきます。


■壁面を活用した緑化計画

敷地や屋上に十分な緑化面積を確保することが難しい場合、壁面緑化が有効です。壁面緑化には上部から植物を下げる「下垂型」と、下から植物が這い上がる形の「登はん型」の2種類があります。

壁面緑化の緑化面積は、「下垂型」「登はん型」ともに「緑化長さL(m)×1.0m=緑化面積(m2)」として算出されます。(国土交通省緑化手引きより)

登はん型

下垂型

下から緑化する「登はん型」(写真左)と、上から緑化する「下垂型」(写真右)。いずれの壁面緑化も自動潅水システムを導入することで、維持管理を簡単にできます。


3.機能性緑化サポートシステム

■700種以上の植物をデータベース化した「機能性緑化サポートシステム」

日本全土に対応した700種以上の樹木、草花など、主に緑化で選ばれる植物の特性、機能をデータベース化し、迅速かつ正確に、植物の蒸散作用など「機能性」を重視しながら、より環境に配慮した緑化をご希望のお客様をサポートします。

■システムがサポートする主な項目

地域環境の改善効果

ヒートアイランド現象の緩和に大きく役立つ蒸散作用が高い植物や、大気浄化能力の高い植物などを選ぶことができます。

香り植物の効果

植物それぞれの香りの特徴を活かし、アロマテラピー効果などがある緑化を実現できます。

生態系への配慮

野鳥がどのような実を好んで食べに来るかなど、地域に生息する生物を誘導する緑化計画ができます。

屋内緑化への対応

日照に制限のある屋内で生育できる植物や、アトリウムなどの環境に適した植物を選ぶことができます。

植物の特殊な性質

人体に影響のある有毒植物や、特定の植物同士で成長を抑制する作用(アレロパシー)などについて検討することができます。



結果画面(例1)


結果画面(例2)