2004.06.15

テクニカルニュース

維持・保全

炭素繊維を使って街を長生きさせます

今日、既存建物を有効に活用していくことが重要な課題となっています。建物や橋、トンネルなどの既存の施設・構造物をできるだけ永く、安全に使い続けることが求められ、そのための補修・補強技術が必要とされています。

今回の特集では、軽くて丈夫な炭素繊維を用いて、施設や構造物を効率よく補修・補強できる2つの技術をご紹介します。

建物の耐震補強工法
「SR-CF工法」
大規模構造物の補強・補修工法
「HiPer CF工法」

■建物の耐震補強工法「SR-CF工法」

近年は、建物の地震に対する安全性向上が社会的に強く求められており、建物を使いながら耐震補強をするニーズが高まっています。また、建物を最適な状態で有効に活用していくために、既存建築物の安全性を強化する建築基準法の改正*が5月に衆議院で可決、成立しました(1年以内に施行)。

SR-CFSeismic Retrofit by Carbon Fiber Sheet)工法は、既存建物の柱や梁、壁に炭素繊維シートを貼り付けることで、建物の耐震性能を大幅に向上させる技術です。

建物を使用しながら耐震補強することが可能な上、柱はもちろん、梁や壁など炭素繊維シートを全周に巻き付けることができない部分でも「CFアンカー」を併用することで効率よく耐震補強することができます。教育施設、庁舎、住宅などの建築分野だけではなく、土木構造物などの実績もあり、多様な用途に活用できます。

建物の補強(例)

建物の補強(例)

*既存建築物の安全性を強化する建築基準法の改正:
建築基準法の改正により、新耐震設計法(1981年)以前の建物(既存不適格建物)について、自治体は改修を勧告、従わない場合は是正命令を出すことができるようになり、従わない法人には罰金刑が科されます。また、従来は不適格事項を全て一度に改修する必要がありましたが、段階的な改修が可能になります。

■SR-CF工法の特徴

  • 独立柱だけでなく、壁付き柱や梁や壁の補強もできます。
  • 施工が簡単なため、工事期間は短く、火気や溶接も不要、騒音や振動、粉塵もほとんど出ません。
  • 資材が軽量で大掛かりな機材が不要なため、建物を使用しながら工事ができます。
  • 設計施工指針は数多くの実験データに基づいて作成されており。技術的に高い評価*を得ています。

*技術的に高い評価:
(財)日本建築防災協会の技術評価を取得(2001年に梁と耐震壁、1999年に独立柱と壁付き柱)。
2004年 日本建築学会賞(技術)、2002年 日本材料学会技術賞、2001年 国土技術開発賞を受賞。

※国土交通省 新技術情報システム(NETIS)に登録(登録番号;KT-010053)

■炭素繊維シートによる補強効果

炭素繊維をシート状にしたもので、鋼材と同等の強さを持ち、柱のねばり強さを実現します。


補強されていない独立柱


SR-CF工法で補強された独立柱

■「CFアンカー」により壁付き柱などの補強も可能に

炭素繊維を束ねたものが「CFアンカー」です。

壁に小さい孔をあけてCFアンカーを挿入し、端部を扇状に広げて炭素繊維シートに接着して一体化させる簡単な方法です。
CFアンカー写真

■適用事例


サッシ付き柱の補強
サッシをはずさずに壁付き柱を補強できます。


梁の補強
埋込型の「CFアンカー」を使うことで、上階に影響を及ぼさずに梁を補強できます。

■施工手順

1.下地処理、穿孔
2.柱に炭素繊維シート貼り付け
3.CFアンカーを壁の孔に挿入
4.CFアンカーを扇状に広げて接着

写真1 写真2
  写真3 写真4

■大規模構造物の補強・補修工法「HiPer CF工法」

HiPer CFHigh Performance Carbon Fiber)工法は、道路や鉄道、港湾などの土木構造物を、炭素繊維シートを利用して補修・補強する技術です。

コンクリート構造物と炭素繊維シートとの間に緩衝材となる弾力性のある材料を設置する接着工法で、構造物にかかる力を分散させ、シートの剥離を緩和することができます。

工法の仕組み

工法の仕組み図

■HiPer CF工法の特徴

  • 従来よりも少ないシート量で同等の補強効果がありコストが削減できます
  • 局部的な力の集中や炭素繊維シートの剥離が緩和できます。
  • 軽量なため施工が容易です。
  • 複雑な形状の構造物にも対応できます。

※国土交通省 新技術情報提供システム(NETIS)登録No.KK-030029

■適用事例

トンネル・管などの内面補強でも効果を発揮し、コンクリートのひび割れ・剥落などの防止にも有効です。また、塩害劣化対策として、桟橋やLNG気化器など表面保護を兼ねた補修工法にも適用できます。


トンネルの覆工、コンクリートの剥落防止工事:高所作業車を使用して施工するため、片側1車線を規制して、使いながら施工できます。


道路橋のコンクリート床版の疲労耐久性を向上させるための補強工事
:床版下面から補強が可能なため、交通を遮断することなく補強できます。

■施工手順

1.下地処理
2.緩衝材塗布
3.炭素繊維シート接着
4.表面仕上

写真1 写真2
  写真3 写真4